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2009年にドラマ化、2018年に実写映画化しいずれも高い評価を得た『空飛ぶタイヤ』の原作小説を読みました。半沢直樹や下町ロケットが有名になりすぎて池井戸潤の小説の中ではやや影が薄い感じもしますが負けず劣らず非常に面白い小説でした。
シリーズものを除けばおそらく池井戸作品の中で最も長編。しかし、圧倒的なボリュームにもかかわらず読む手が止まらずあっという間に読了しました。これ…名作です。
作品概要:『空飛ぶタイヤ』とは
空飛ぶタイヤ / 池井戸潤
『空飛ぶタイヤ』は「まともに経済小説を書こうと思って書いたのは初」「僕はこの物語から『ひとを描く』という小説の根幹を学んだ」などのコメントがあり池井戸潤さんにとってもターニングポイントになった作品なのではないでしょうか?
この小説の特徴は2002年に発生した三菱自動車製大型トラックの脱輪による死傷事故、三菱自動車によるリコール隠し事件を題材にした経済小説です。この巨大な事件を下敷きに「IF」の物語を描いております。
作者:池井戸潤さんについて
池井戸潤さんは岐阜県出身の小説家で慶応義塾大学卒業、三菱銀行に就職した元エリートでもあります。『果つる底なき』でデビュー後、銀行ミステリーのイメージが強くつく。
しかし、本人はエンタメ作家として評価されたい想いが強かったため「人」に焦点を当てた作品を書くようになった。
- 半沢直樹シリーズ
- 下町ロケットシリーズ
- 陸王
- 民王
- ルーズベルトゲーム
- 七つの会議
など。多くの作品がドラマ化されております。
『空飛ぶタイヤ』:受賞歴
- 第28回吉川英治文学新人賞
- 第136回直木三十五賞候補作
メディアミックス / 関連商品
『空飛ぶタイヤ』は池井戸潤作品で初めて実写映画化された作品です。TOKIOの長瀬が主演を務めたということでも話題になりました。視聴者の満足度も非常に高い名作となっております。
900ページに及ぶ大作を2時間の枠におさめるということで回り道が少なくシンプルな構成に。
- 赤松徳郎 – 長瀬智也
- 沢田悠太 – ディーン・フジオカ
- 井崎一亮 – 高橋一生
- 井崎一亮 – 高橋一生
- 高幡真治 – 寺脇康文
- 榎本優子 – 小池栄子
- 門田駿一 – 阿部顕嵐
- 狩野威 – 岸部一徳
- 巻田三郎 – 升毅
- 柏原博章 – 木下ほうか
実写映画の前にwowowでドラマ化。東京ドラマアウォード2009において連続ドラマ部門優秀賞、第26回ATP賞テレビグランプリ2009においてグランプリおよびドラマ部門最優秀賞を受賞した。
この人物相関図は小説と違うけどわかりやすくて良い。
何故か…少女漫画でコミカライズされてます。勇気のある人は読んでみてください。
『空飛ぶタイヤ』のあらすじ
赤松は父親の後を継ぎ「赤松運送」を経営してる。ある日、従業員の運転する大型トレーラーが脱輪し死亡事故を起こしてしまう。整備は行き届いていたはずなのに製造元であるホープ自動車から一方的に「整備不良」であると決めつけられ警察からは容疑者と家宅捜索をされる。
その事件の注目度の高さから大口の取引先には仕事を断られ、子供も学校でいじめられ、銀行からは融資を引き揚げられ…と倒産、逮捕、家庭の危機に陥る赤松。絶体絶命のピンチではあるが、整備不良ではなくホープ自動車の欠陥があるのではないかと疑う赤松は家族、社員、そして事故の遺族の為に超巨大企業に挑む。
果たして赤松は無実を証明することができるのか…
『空飛ぶタイヤ』主な登場人物
この『空飛ぶタイヤ』めちゃくちゃ登場人物多いです。多すぎるぐらい…。抜粋して紹介します。
赤松運送
- 赤松 徳郎…赤松運送の2代目社長。脱輪事故により世間より非難を浴びる。小学校のPTA会長でもある。
- 宮代 直吉…先代から赤松運送を支える専務。赤松の良き相談役。
- 門田 駿一…赤松運送の自動車整備士。事故のあった車両の整備を担当していた。
赤松家
赤松家は他に娘もいるんですが紹介は割愛。
- 赤松 史絵…赤松の妻。夫の会社の自動車事故とその事故により子供がいじめられてるのに悩んでいる。
- 赤松 拓郎…長男。死亡事故がきっかけでいじめられるも父を信じている。
ホープ自動車
- 沢田 悠太…ホープ自動車 販売部カスタマー戦略課長。赤松と対立する中で自社がリコール隠しをしていることを知る。
- 小牧 重道…沢田の同期。
- 室井 秀夫…ホープ自動車 品質保証部課長。沢田と対立する。
- 杉本 元…ホープ自動車 品質保証部の社員であり内部告発をする。
- 狩野 威…ホープ自動車 常務取締役であり、リコール隠しの黒幕。社内に絶大な権力を持つ。
東京ホープ銀行
- 井崎 一亮…ホーム自動車の担当。週刊潮流記者であり大学時代の友人である榎本からホープ自動車のリコール隠しについて知らされる。
- 巻田 三郎…東京ホープ銀行の専務であり狩野と癒着している。
- 濱中 譲二…伊崎の上司であり巻田と対立してる。非常に優秀なバンカー。
- 柏原 博章…東京ホープ銀行自由が丘支店の支店長。過去回収でトラウマがあり赤松運送の融資を打ち切る。
被害者とその家族
- 柚木 雅史…被害者の夫。赤松を訴える。
- 柚木 妙子…被害者になった女性。
- 柚木 貴史…長男。赤松に手紙を渡す。
その他の関係者
- 榎本 崇…週刊潮流記者で井崎の友人。ホープ自動車の内部告発を受け取材を重ねる。
- 進藤 治男…沢田の妻。ラジオのパーソナリティをしている。
- 沢田 英里子…沢田の妻。ラジオのパーソナリティをしている。
- 高幡 真治…港北警察署刑事で赤松運送に家宅捜索をする。
- 片山(モンスターペアレント)…死亡事故を機に赤松をPTAから追い出そうとする。
『空飛ぶタイヤ』を読んだ感想
三菱自動車の脱輪事故、リコール隠し事件をベースに練り直した作品
「空飛ぶタイヤ」は運送会社がおこした脱輪による死亡事故と大手自動車メーカーのリコール隠しをテーマにした作品です。自社の整備状況に不備はなかったと信じる赤松が巨大企業に挑み無実を証明する経済小説。
この死亡脱輪事故もリコール隠しも実際にあった事故&事件をベースにしております。2002年に発生した三菱自動車製大型トラックの脱輪による死傷事故、三菱自動車によるリコール隠し事件…実際にあった事件を下敷きにしていることもあり非常にリアリティのある作品になっています。
小説「空飛ぶタイヤ」は赤松運送が無実を勝ち取るために奔走する作品ですが、現実では事故を起こした会社は倒産に追い込まれています。池井戸潤さんはこの運送会社の名誉を守りたくて、小説の世界で大企業に逆襲する赤松運送を描きたかったのかもしれません。わたしはこの作品はそんな「もしも」を描いた作品だと思っています。
痛快な逆襲までがとにかく長い。赤松どんどん追い込まれる。
池井戸潤作品の醍醐味と言えば追い込まれた主人公が最後の最後に倍返しする逆襲パートですよね。そのスッキリを味わうために赤松は苦境に追い込まれるわけですが笑っちゃうぐらい不幸です。
ぱっと思いつくだけでも
- 大型車の脱輪で死亡事故発生
- 大口の顧客から取引停止を申し告げられる
- 長年かわいがっていた社員が辞める
- 警察が家宅捜査にくる
- 遺族から訴えられる
- 銀行から融資を打ち切られる
- 息子がいじめられる
などなど。上下巻たっぷり追い込まれるからこそ後半の逆襲はすがすがしいのです。
赤松運送 VS ホープ自動車、ホープ自動車内の下剋上、東京ホープ銀行 VS ホープ自動車、PTAなど複数の物語が入り乱れるおもしろさ
とにかく登場人物が多い本作ですが、900ページの中で様々な物語が動きます。
吹けば飛ぶような中小企業である赤松運送に対し、ホープ自動車は三菱自動車をモデルにしてるだけあって財閥の巨大企業です。とにかく尊大な態度であり再調査をお願いする赤松に対してあの手この手で嫌がらせをします。
ある意味W主人公でもあるホープ自動車側の担当沢田も赤松に対してかなり辛辣です。というか、最後までこの二人が和解することはなかったですね。
赤松に対してはくそ冷たい沢田ですが、ホープ自動車の主役として描かれています。赤松運送の事故に違和感を覚えた沢田は品質管理部によるリコール隠しに気づきます。そんな沢田を懐柔しにかかる狩野。
沢田は誘惑に負けずに社内の不正を暴くことができるのか?
ホープ自動車は内部のガバナンスがボロボロで業績も悪くグループ企業である東京ホープ銀行に大口の出資を求めます。ホープ自動車の担当である井崎は借金まみれ、危機意識ゼロ、リコール隠しの疑惑まであるホープ自動車に融資するのか?バンカーとしての意地が見れる名パートです。
ちなみに、第3の主人公ともいうべき井崎。本編では一度も赤松と会うことはありません。これだけ重要な2人が一言も話さないなんて…
ラストはホープ銀行はホープ自動車を救済せずに大手自動車メーカーとの吸収合併を進めるというウルトラCを披露するわけですが、実際にこの小説発表後に三菱自動車は日産・ルノー連合に吸収合併されました。
池井戸潤…占い師にでもなれそう
正直言うとこれ本編にいらないんじゃないというのがPTAパートです。実際に映画やドラマでもカットされています。とにかくモンスタークレーマーがうざい。かなりうざい。だからこそ終盤このモンペがどうなるのか…は非常に気になるはずです。
まとめ:『空飛ぶタイヤ』はかなりおもしろい
大企業のリコール隠しという大事件をここまで多くの視点を入れながらエンターテイメントとして成り立たせた池井戸潤はさすがというしかないですね。読み始めたら止まらなくなるはずです。
半沢直樹、下町ロケット同様大企業の不正に挑む小説ですのでスカッとしたい方はおすすめです。